第3回 作文力-実践編

1 書きたいことの整理

 いよいよ、最後の「実践編」である。まず、紙と鉛筆を用意する。紙は下書き用である。この紙に、書きたいことの項目を順序だてて、できれば図式的に列挙する。パソコンでも構わない。ただし、アイデアを練るときは紙と鉛筆の方が向いている(と思う)。項目は、文章の「小見出し」にあたるものだが、下書きのためのものだから、気取る必要はなく、自分に分かるように具体的に書く。作文のテーマが「北海道の農業」であれば、「北海道特産の農産物あれこれ」、「明治開拓時代の開墾の苦労話」、「私が十勝で体験したカボチャの収穫」など、書こうとする項目を列挙していく。これらが、作文(文章)の材料になるわけだが、材料はなるべく豊富で、バラエティに富んでいるほうが良い。自治体のホームページに出ているような一般的な知識だけを並べても、魅力的な文章にはならない。統計数値など全体を示すデータも大事だが、自分自身の農業体験などがあれば、大変望ましい。今の農業問題を論じたいときでも、歴史を調べて過去と関連づけながら論じることができれば、議論に奥行きがでる。また、同じ農業といっても、「畑作」、「米作り」、「酪農」ではずいぶんと違う。短い作文なら、これらのどれかに絞って書くほうが散漫にならないであろう。

 ――というふうに、書きたい材料を、すべて白紙に書き出す。そのうえで、与えられた文字数(あるいは原稿用紙の枚数)で収めるため、書ききれない項目は消していく。残った項目が仮に10個であれば、これをどのように構成するかが、次の課題になる。

 なお、念のために言うと、ここで「項目」というのは、自分が書く予定の内容を端的にあらわす見出しのことで、その内容をすぐに書ける状態になっているものをいう。もちろん、すべて頭の中に入ってなくても、文献やデータをみながら書くのでもよい。また、時間に余裕があるなら、「項目」も、大項目の下に、中項目をいくつか並べてもよいし、その下に小項目がくることもあろう。こうやって、自分が書こうとする内容をビジュアル化することが大切なのである。

2 全体をどう構成するか?

以上のようにして書き出した項目を、どうやって構成するか。実はこれが結構難しい。昔から、作文では「起承転結」が重要だ、と言われる。これはもともと漢詩の構成法だが、作文の作法を教えるときにもよく引き合いにだされる。「起」で問題提起、「承」でこれを受けた展開をし、「転」で変化をつけ、「結」で全体をまとめる。たしかに、読みやすいよくできた文章が「起承転結」で構成されていることは少なくない。文章ではないが、クラシックな4コマ漫画(「サザエさん」など)にも「起承転結」のお手本をみることができる。しかし、いざ自分が書くとき、この「起承転結」法は、たいていの場合、役にたたない。集めた材料の何を「起」、何を「転」にしたらいいかを決めるのは、やさしい作業ではないからである。ひと言で作文といっても、書く目的も内容も様々であって、どんな場合にも使える文章構成法を期待するほうが悪いのだ。ただし、良い文章構成のためのヒントのようなものはある。自分で項目を構成するとき、次の「ヒント」を是非参考にしてほしい。

 ヒント①:「一般的な総論」から「具体的な各論」へ

たいていの文章、とくに説明文や報告文書は、何を論じるかを最初に述べるのが普通である。「北海道の農業」と題する文章なら、最初に、たとえば「北海道の農民が現在かかえている問題は何か」をいくつか列挙して、これについて「これから検討して将来の解決法を述べる」と宣言する。要するに、問題提起である。結論的なことも簡単に述べておいてもよい。しかし、それ以上は踏み込まない。書き出しは、「総論」「一般論」として、細部に踏み込まない。読者は、この「総論」を読んで文書全体に対する見取り図を頭に描くのである。その次に、より具体的な話を始め、事例や、データなどを示す。言い換えると、抽象的な話から始まって、より具体的な話が続く、ということである。

 以上は、冒頭部分の話だが、文章の途中でも同様に、総論的・原則的なことから論じる。ある「原則」を説明したいなら、(1)原則の意義を述べ、(2)その原則から派生する下位の原則を説明し、(3)原則の例外をいくつか述べる。ここでも「総論」から「各論」に議論が進んでいる。また、(1)(3)のように、原則と例外が問題になるときは、原則から書き始める。ヒント①は、文章は「総論」→「各論」に進む、ということである。

 ヒント②:「意見」(主観)は必ず「論証」(客観)する

多くの文章は、自分の意見、感想を述べることを目的に書かれる。主たる目的が客観的な事実の報告である場合でも、書き手の見解が求められることが多い。その場合、意見や感想を言いっぱなしにしてはいけない。これがヒント②の「意見」に「論証」を付す、である。たとえば、「私は死刑制度に反対だ」と言ったとしよう。ヒント②から、なぜ反対なのか、説得的な論証をする必要がある。反対の理由として、「多くの国が死刑を廃止している」、あるいは、「もし無実の人を死刑にしてしまったら、取り返しがつかない」などが考えられるとしよう。この2つを比べると、後者のほうが論証としては強い。したがって、論証1つなら後者を、2つ挙げるなら後者から挙げる(3つ以上でも同じである)。随筆などには、「論証」がないように見えるものがある。しかし、説明文の合理的論証とは違っても、たとえば旅先である種の感慨にふけったことを述べたとして、その「感慨」の原因となった「事情」は文章のあちこちに散りばめられているはずだ。この場合は、「感慨」の論証が「事情」なのである。

 なお、”「意見」←「論証」”をした直後に、自分とは反対の「意見」(たとえば、「死刑制度に賛成する」)を挙げて、これを批判する手法も効果的である。

 ヒント③:「時間の流れ」法

3つ目のヒントは、文章は「時間の流れ」に沿って書く、ということである。物事は、時間の流れに沿って展開するから、その原因と結果も、「時間の流れ」とシンクロする。酒に酔ったまま自動車を運転するという「原因」があり、対向車と衝突して死傷事故を生じさせるという「結果」が起きる。一般に、因果の流れに沿って説明するほうが分かりやすいので、時間的な先後のある複数の項目があれば、古いほうから書く。ただ、あえてこんなことを言わなくても、私たちは、何かの事件や出来事を記述するとき無意識にそうしている。だから、これを「ヒント」というのは大袈裟だという声も聞こえてきそうだ。しかし、何かを論じるとき、「時間の流れ」を意識して構成すると文章にメリハリがでる。

 具体例をあげよう。たとえば、「安楽死」を論じるとき、安楽死とは何かを最初に説明し、そのうえで、安楽死に否定的な見解とその理由、肯定的な見解とその理由を説明し、最後に自分の意見を述べるという構成が考えられる。これで問題はないが、文章としては面白くない。そこで、①中学時代に森鴎外の「高瀬舟」を読んで、安楽死は認められるべきだと考えるようになった。②高校時代に、祖母が脳死状態になった姿を目の当たりにみて強い衝撃を受けた。③祖母の死は、安楽死というわけではなかったが、その死をきっかけに考えが変わった。現在は、安楽死に対して懐疑的な気持ちでいる。

 ――というふうに、「時間の流れ」を入れることで、文章にメリハリを与えることができるのである。もちろん、わざと「流れ」に逆らって文章を書くというテクニックもある。しかし、それは上級編であり、当面は考えなくてよい。

3 さあ、書いてみよう!

構成ができたら、早速、ペンを持って(あるいはキーボードに向かって)書き出してみよう。文章の性格や目的によって「書き方」は異なるが、分かりやすく正確に書く、という姿勢はつねに忘れないでほしい。それと、文章には「流れ」というのがあって、飛躍があったり、重複がある文章は読みにくい。第1回のときに書いたように、文章に味わい、あるいは気品のある「名文」は誰にでも書けるものではないので、考える必要はないが、読みにくい文章は避けよう。もし、文章に自信がもてなければ、以上のヒントなどを参考にするほか、次のようなことに心がけてみてほしい。きっと、あなたの文章は改善されると思う。

 まず、よい文章にたくさん触れる。読むときは、精読することが望ましい。できれば、小説だけでなく、いろいろなタイプの文章に挑戦すること。新聞を読むときも、事件記事よりも、まとまった社説や論壇のような文章を読むことをお勧めする。

 次に、自分の書いた文章を推敲し、手直しする習慣をつける。これを英語でリライトと言うが、ものを書く仕事をする人間でリライトできなければ失格である。書き終えたら1日くらいおいて、再読してみる。自分の文章の欠点がきっと見つかるはずである。

 そして、自分の文章を自分でチェックすると、どうしても独りよがりになりやすいので、できれば誰かに添削してもらう。他人にみてもらって直してもらったり、意見を言ってもらうのは非常に重要である。

*          *          *

 これで、「作文力」の連載を終える。多少なりとも参考になっただろうか。「作文」にきちんと向き合うことは、自分とのたたかいでもある。果敢に向かっていってほしい。

Good Luck !!

第一回 「作文力」をつける
第二回 良い「作文」を書くための条件
第三回 作文力-実践編

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